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2008.01.08

vol.9 私の好きなパリの本

数年前に引越しをした際、荷物の多さに我ながら驚き、深く反省・・・、
特に本は図書館でも借りられるし・・・とその大半を処分、これからはどうしても手元に置きたいと思う本を厳選しようと固く心に誓ったのですが・・・、
「パリ」の本だけは例外。

気分転換に訪れる書店で見つけては迷わず購入してしまいます。
写真は、私のライティングデスクの正面。

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これらの本を支えるのは、高さがゆうに1m近くあるエッフェル塔のオブジェ。
毎日眺めては幸せな気分になるのが「パリ」の本です。

書店の「パリ」コーナーに行けば、今やずらりとパリの本が並んでいますが、今回は、少し前の本で度々読み返している2冊をご紹介したいと思います。

食いしん坊のあなたへのお勧めは戸塚(とづか)真弓さんの『パリからのおいしい話』(中公文庫)です。

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今でこそ、パリ在住の方々のご本はたくさん出版されるようになったのではと思いますが、戸塚真弓さんは、その先駆者ではないでしょうか・・・?

1984年から雑誌「マリ・クレール」に連載していらしたエッセイをまとめ、1989年に中央公論新社から出版されました。

と言っても、私が初めてこの本を手にしたのはその数年も後。
図書館で何の気なしに借りたのですが、戸塚さんの引き込まれるような文体の魅力にパリのおいしいものの虜になりました。

この本は、お料理にまつわる数々のエピソードや、フランス流のレシピなど、食べ物のおいしさがいきいきとした文章で描かれ、書いてあるお料理を「食べたい!」「作ってみたい!」と思わせるだけでなく、文章の中に生き方のヒントのようなものがちりばめられているのです。

中でも好きな部分は、戸塚さんがフランス版おふくろの味に目覚めたお話。

かのジョエル・ロブション氏とも親交があり、フランス料理に造詣の深い戸塚さんがある時、お宅にて二つ星のシェフをもてなした時のこと、前菜、主菜と手の込んだお料理を作ったところ、そのシェフに

「でもねぇ、こういう手の込んだ料理は、僕は店で毎日作っているんですよ。僕が食べたかったのは、子供の頃、祖母や母が作ってくれた素朴な家庭料理なのです。」

と言われ、以来、フランスの家庭料理に目を向けるようになったというお話。

ある日、伝統的な家庭料理グラタン・ドーフィノア(じゃがいもを使ったグラタン)を作ったところフランス人のご主人がいたく感激、その後、もてなしにはお客様がふだんあまり食べないものを出すべきだと主張するご主人の反対を押し切ってお客様料理の付け合せにしたところ、前菜より主菜より、このグラタンが人気を集め、お客様が全員おかわりしたとか・・・。

フランス料理というと、手の届かないようなイメージを抱く中で、フランス人もママンの味を求めるという、暖かな気持ちになるようなエピソードです。

私も、本の中にあるレシピをもとにグラタン・ドーフィノアは何度も作り、今ではお手のものになりました!

その他、<生ガキで海の神秘を味わう>、<フランス料理の王様ポ・ト・フ>、<バターの魔法>、<小さな贅沢・サラダ>など、そのタイトルを見るだけで読んでみたい!と思わせる文章の数々・・・に数年たった今でも惹かれて、何度も読み返しています。

ところで、六耀社のこのブログはかなり真面目に書いていますが(笑)、私が主任講師を務めるHanahiroプリザーブドフラワー・アカデミーのブログでは、もっぱら「食」担当。

「三代川さんのブログは食べ物ばかりね!」

と言われていますが、戸塚さんのご本にあった一言に勇気づけられました。
『美味礼賛』を書いたブリア・サヴァランは、こうおっしゃったとか。

「おいしいものに興味があって、それを味わう女性は、おいしいものに関心がない女性より10年は若くて魅力的だ。」と・・・。ウフフッ!

さて、お料理に限らず、戸塚さんの他のご著書で私が大きく影響を受けたことにフランス人のジュエリーに対する姿勢があります。
戸塚さんの周りのフランス人は、改まった席や華やかな席にはいつも同じジュエリーを身につけてくる方がいらっしゃると。
しかも、10年以上変わらずに・・・。

それは、「ひとつの同じアクセサリーで、日常の場では控えめな存在感を、晴れの場では豪華さを引き出すのが上手」なフランス人の「粋」であり、曰く「あれもこれもと欲張って中くらいの品を百個持つより、確実に自分をひきたててくれる見事な本物を二つ三つ持って愛おしむ。だから同じものをしょっちゅう身につけても、少しもコンプレックスにならない。私は彼女たちの潔い選択に魅力を感じる。」と・・・。

これまで多くのアクセサリーを買って来た私でしたが、これを読み、そろそろ私に合う「一生もの」のジュエリーを時間をかけて選び、それをいつも身に付けて大切にしたいと思っています。

そしてもう一つ、語学の学習について・・・。

40歳を機にフランス語を始めたのは戸塚さんのご本を読んでから。

それまで語学は若い耳が無ければと思っていましたが・・・。
ご本の中で、ある時、戸塚さんが乗った豪華客船で目にした光景が紹介されています。
英語とフランス語が船の中での公用語となっている中で、一人で5、6カ国語を話す人がザラにいる、しかもそれが高年齢の女性に目立ったこと。
聞いてみれば3カ国語めからは、みんな60歳頃から始めている。
意外にもカセットでの独学が一番多い。

ある70歳の女性は戸塚さんに

「あなたが来年またこの船に乗るなら、私は新しく日本語の勉強を始めるわ。」

とおっしゃったとか。

「語学の習得は若くなければ・・・」などとせっかくのやる気に水をさすようなことを言うよりも、その女性達の話を聞いたら、私だってこれから!という気持ちが湧いてきて、胸がぽっと暖かくなったとあり、私も大いに勇気づけられました。

ところで、好きな本は手元において読み返すというのも戸塚さんの影響。
「気が向いた時、あるいは外出間際に手をのばしてバッグにほうりこんだりする。初めから読み直す本もあれば、パッと開いたページから好きなだけ読む本もある・・・」と書いている戸塚さんが最も多く手にするのは、アイザック・ディネーセン『アフリカの日々』だそうな。

戸塚さんからいただいたアイデアで、私が最も多く手にするのは戸塚さんの『パリからのおいしい話』となりました。

戸塚さんのご本はほかに『パリからのおいしい旅』(講談社文庫)、『暮らしのアート 素敵な毎日のために』『パリからの手紙』(いずれも中央公論新社)ほかがあります。みなさんも書店で探してみてくださいね。

そして、もう一冊、日頃あまり小説を読まない私が、度々読み返しているのが、
芹沢光冶良氏の『巴里に死す』です。

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昭和初期に書かれたこの小説はパリを舞台にした物語。

洋行という言葉通り、巴里へ行くにも船で何十日もかけて行っていた時代、夫の留学に同行した日本人女性の苦闘が巴里の風景と共に描かれています。

今からおよそ70年ほど前の巴里の風景・・・「ボンマルシェ百貨店」や、「ルクサンブール公園」など、まさに小説の中に写真家木村伊兵衛氏の巴里をさらに時代を遡りモノクロームで見るような、そんな空気の漂う小説です。

自分に自信を持てず自分を生かしきれない主人公の生き方を歯痒く思いつつ、死に直面しながらも自分を高めよう、磨こうとする主人公の姿は時に戒めとなることもありますが、20代の頃から読んでいるこの小説が、30代40代と年を重ねるに伴い、受け止め方や感じ方が変わるのも小説ならではの魅力ではないでしょうか?
これからもずっと手元に置いておきたいと思います。

ところで、最近買った本は、偶然、どれもパリやフランスの「食」に関するものばかり。

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本を眺めながら次回のパリの時にはどこで食べよう、何を買ってこようとあれこれ考える私は、我ながら能天気、そして気が早いですね。

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プロフィール

三代川純子

フラワーデザイナー

三代川純子

三井物産株式会社人事部勤務中に恵泉フラワースクールで学び、退職後、フラワーデザインを学ぶため渡英。

「コンスタンス・スプライ」「ジェーン・パッカー」などにてディプロマ(卒業証書)を取得した後、英国王室御用達フローリスト「エドワード・グッドイヤー」にて修業。
また、パリのフルリスト「パトリック・ディヴェール」「リリアンヌ・フランソワ」にても研修を行う。

フラワーデザイナーとして、雑誌「花時間」などで多くの作品を発表するかたわら、ホテルオークラ レディースサークル(現在、ホテルオークラ本館建て替えのため休会中)では、ヨーロッパで自ら買い付けて来た資材を使いレッスンを行っている。

また、「Hanahiroプリザーブドフラワー・アカデミー」の主任講師も務める。